75.かっこいい傷

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年が明けて2017年1月。

放射線治療の影響もあって湿っていた傷跡が、
少し和らいできた頃。

それまで、
傷跡から、なんとなく目を逸らしていた毎日。

お風呂場の鏡は湯気で曇っていたから、
はっきり見なくても済みました。

泡立てたボディソープをたっぷりつけて、
直接触らないようにして洗いました。

お風呂から出たあとは、
タオルで水をやさしく拭き取って、
なるべく見ないようにしながら、
ガーゼに薬を塗ったものを貼りました。

洗面所の鏡の前に立つときも、
もともと目が悪いわたしには、
メガネをかけたり、
コンタクトをつけたりしなければ、
はっきりとは見えません。

なかなか傷を直視できずにいたわたしにとっては、
好都合でした。

そんななかでも、
間違えてメガネをして鏡の前に立ってしまうことがあり、
いつもよりも赤々としたリアルな傷が見えて、
びっくりしてすぐにメガネを外したこともありました。

傷跡が少し乾き始めてからは、
ガーゼを貼ったり貼らなかったりの日々。

そんなある日、
お風呂から出たわたしを見た母が言いました。


「なんか、不謹慎だけどかっこいいね」

「戦国武将みたい」


戦に立ち向かって出来た傷のようだと、
母は言いました。

真っ向から立ち向かって、
生きるためにできた傷。

戦う経緯も、
傷自体もすごくかっこいいと、
姉も言ってくれました。

なんだか、
涙がこぼれそうになりました。

このときはまだ完全には受け止めきれていなかった傷が、
誇らしく思えるような気がしました。

この日、
わたしは母の言葉に、
傷をはじめてハッキリと見る勇気が出ました。

鏡に映ったその傷跡は、
右の脇から溝落ちにかけて15cmくらいの傷でした。

母の言うように、
それは戦いに立ち向かった証に見えました。

母は、わたしの胸がなくなってしまったことに、
自分の胸に傷ができたときよりも、
何倍も悲しんでいたと思います。

はじめてわたしの傷を見たときも、
言葉にならなかったんだと思います。

母も姉も、はじめてガーゼを外して直視したときには、
すごくショックだったと思います。

でも、その傷に、手術直後は薬を塗ってくれたり、
一緒にお風呂に入って洗ってくれるときもありました。

いま思えば、乳首に思いを馳せることもありました。

告知を受けたとき、
すでにわたしの腫瘍は大きく、
抗がん剤治療が必要になることと、
手術をしても全摘になるだろうということを言われました。

診察室から出て、
待ち合い室の椅子に座ったとき、
まずわたしの口から出てきたのは、
「全摘になったら乳首がなくなっちゃうのかな」
という言葉でした。

告知されてからの数10分。

まだ乳がんという事実を受けいれるには時間が浅く、
命よりも、この先のことよりも、
それが頭に浮かびました。

抗がん剤でなくなった髪の毛は生えてくるけど、
乳首は生えてこないよな…。

いま思えば当たり前のことを、
そのときは真剣に思い浮かべました。

乳がんという事実をしっかりと受け止めることができて、
命の大切さ、治療の重要さをわかったあとでも、
乳首を外して、後から取り付けることはできないのか、
そんなことをまじめに家族で話し合ったこともありました。

後から形成手術や人工乳頭の存在を知りましたが、
今のところ、そういったことは考えていません。

失ってしまったことは確かに悲しいし、
パッドがずれる度に切なくなるけれど、
いろいろな治療を経て、
母と姉の言葉があったからこそ、
今のこの胸を素直に受け入れることができました。

だいすきな温泉に行くのには時間がかかりそうだけれど、
自分の胸にちゃんと向き合えたことが、
わたしにとってはうれしいことです。

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2017/08/11 23:55

3 件のコメント

SARA

2017/08/12

さくらまいこさん

こんばんは。

共感し過ぎて涙がでそうです。

私も同じく術後、乳首はどこにいったの?
私が毎日毎日お風呂で見ていた私の乳首はどこにいったの?と。

主人にも、お風呂に入る前に服を脱いだ時に
『私のおっぱい何処にいったんやろ。なくしたんかなぁ』と言ってみたり。

『見て!北斗の拳の世界や!』と言ってみたり。

戦に立ち向かう戦国武将!いい表現ですね。

私は幼稚でアニメの世界(北斗の拳!知らないかな?)

お母様もまさか娘までとは思ってなかったでしょうね…。言葉にならないくらい、辛かった事でしょうね…。
でもお母様の辛さもちゃんと分かってる。理解しているのが凄い!

私はと言うと、まだちゃんと向き合えてないです。
鏡で見る事は出来るようになりましたが、時々、主人に『なぁ〜…おっぱい無いわ〜…』と困らせたりしてます。

甘えてるのか…。やるせないのか…。

私はもう少し時間かかりそうです。⤵

温泉いけるようになればいいですね♡

温泉に入る用のバスブラジャーが掲載されてるのを病院で貰ったパンフレットで見ましたよ♡

あと私もまだ調べてませんが東北地方に乳がん患者専用の温泉があるそうですね。

もうご存知かもしれませんが。

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さくらまいこ

2017/08/12

SARAさん、こんばんは。

わたしもSARAさんのコメントを読んで、
涙が出そうです。

今まで当たり前のように、
そこにあったものがなくなってしまうなんて、
受け止めようと思ってもなかなか受け止められません。

まだ直視するのは難しいと思います。

わたしも、傷と向き合うのには、
時間がかかりました。

北斗の拳、知ってますよ!

なんだか言っていいのかわからないのですが、
ご主人に話しかけるSARAさんがかわいくて、切なくて。
SARAさんとご主人、素敵なご夫婦ですね。
以前お見かけしたコメントで、ご主人の愛をすごく感じました。

温泉行けるようになりたいです♡
バスブラジャー、気になっています!
乳がん患者専用の温泉も、気になるなぁ💭*。◌

コメントありがとうございます(⁎˃ᴗ˂⁎)💕

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CHISAKI

2017/08/12

まいこちゃん、こんにちは♪~
当たり前のように産まれたときからあった体の一部が無くなってしまうなんて、特に女性にとって大切な部分を失うことになるなんて想像もしていなかったしとってもとっても悲しいね。
以前から、「大好きな人たちとまだまだ一緒に居たいから命と引き換えに失ったんだ」と、なるべくそう思うように努力してるけどなかなか難しい💧

やっぱりまいこちゃんのお母さんは凄い!🌟
「勝者の勲章」だと思えば無い胸も自信を持って張れそうな気がする(笑)
私も前向きになれそうだよ。まいこちゃん・まいこちゃんのお母さん有難う♡
片方に傷・・・戦国武将・・・独眼竜政宗だね!(`●、∀・´)カッコイイ♪

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さくらまいこ

2017/08/12

ちさきさん、こんにちは♪

わたしのブログにも現れてくれて…!
ちさきさ〜ん、うれしい(´;ω;`)ブワッ

やっぱりちさきさんって、
言葉ひとつひとつがやさしくてやわらかくて、温かいです。

胸のこと、努力していても、
やっぱり難しいことですよね。

でも、これは勝者の勲章!✨
わたしも無い胸を張って生きたいな、と思います( •̀ᴗ•́ )✧キラーン

独眼竜政宗!まさにそんなイメージ!
かっこいいです(,,>᎑<,,)

こちらこそ、
本当にありがとうございます♡

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waka

2017/08/12


こんにちは^ ^
私は温存でしたけど、それでもやはり、術後の傷をみるのが怖くて怖くて現実から目をそらしていました。
先生からシャワー浴びていいよ、って言われてシャワー浴びるのは嬉しかったけど、そこで初めて自分の胸を見ました。
何とも言えない気分でした。
脇から丸みに沿って15センチ程の傷。
あ、私、手術したんだぁ、って初めて実感しました。
今では普通にシャワーを浴び、その度に傷を見て赤味が消えて、腫れも引いていって、日々回復に向かってるんだなぁ、って実感しています!

温存した分だけリスクはある、と先生に言われてますが、今後ただただ再発、転移をしない事を願ってます。

私も温泉好きです!
そして、私も温泉に行くのには時間がかかりそうです…

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さくらまいこ

2017/08/12

wakaさん、こんにちは❀.(*´◡`*)❀.

温存でも同じように、
受け止めるのには時間がかかると思います。
シャワーは浴びられるのはうれしいけど、
怖いですよね。
憎いガンと戦った胸、
がんばって回復に向かっているんですね(。^ ^。)

母も温泉に行くのには時間がかかりました…。

わたしも時間がかかりそうだけれど、
いつかきっと、温泉にゆっくり浸かっている日が来るんだと思います。

コメント、ありがとうございます♡

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