【医師監修】乳がんの治療方法と費用、副作用について

更新日:2017/01/16

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乳がんの治療法には、手術療法、放射線療法、薬物療法(ホルモン剤、抗がん剤、分子標的薬)といった方法があります。がんの進行状態によって治療方法が異なります。ここでは各治療法の治療内容や費用、副作用について解説します。


記事監修医師福田護先生  

【 記事監修 】
聖マリアンナ医科大学
ブレスト&イメージングセンター
院長  福田護 先生


医師と患者

●治療方法の選び方
●手術療法(外科療法)
●放射線療法
●薬物療法
●まとめ


治療方法の選び方

乳がんは、がんの中でも選択できる治療法が多いといわれており、その治療法は、手術療法や放射線療法といった「局所療法」と、薬物療法の「全身療法」に分類されます。

治療法や、その治療を行うタイミングは、検査で分かった乳がんの「組織型」「ステージ」「サブタイプ」の結果に、しこりの数や位置、悪性度などの病態が加味されて選択されます。医師からは、がんの治療法の基準となる「標準治療」に基づいた最善の治療法が示され、患者さんの希望とすり合わせながら治療法を決定していくこととなります。


手術療法(外科療法)

乳がんの治療において、まず検討されるのが手術療法です。

以前は「乳がん=乳房の全摘出」という考えが一般的でしたが、現在では進行具合によって乳房温存術による部分切除も選択できるようになりました。適切に温存療法が選択されれば、乳房切除術と乳房温存術において、再発率に差はないとされています。


乳房温存術(部分切除)

乳房温存術(部分切除)

乳房温存術は、がんを中心に乳房を「部分的に」切除する方法です。手術前の検査によって、がんの部位を確実に把握し、取り残しがないようがんとその周囲の正常な乳腺組織1.0cmから1.5 cmを切除します。


【 対象 】

0期、Ⅰ期、Ⅱ期の乳がんが適応になることが多いです。


ステージの他に、

  • 本人が乳房の温存を希望するかしないか
  • 美容的に満足がいくかどうか
  • 手術後の放射線治療が受けられるかどうか

といった要素も、この手術の適応の判断基準となります。


【 治療 】

手術は全身麻酔で行われ、2時間前後の手術時間を要します。手術後の経過が順調であれば、1週間かからずに退院できます。

がんだけではなく、がん周囲の1.0cmから1.5cmの正常な乳腺組織と合わせて乳腺切除を行いますが、十分に切除した場合でも、臨床的に認識できないほど小さくがんが残存してしまう可能性があります。そのため、手術で切除した組織は病理検査で詳しく調べられると同時に、傷口が落ち着いていれば術後2か月以内に放射線療法をはじめることで、残っているかもしれないがん細胞を死滅させるのが一般的です。


【 費用 】

約20万円(3割負担の保険適用時)


【 後遺症 】

手術によって、乳房の形の変化や手術跡ができるなどの後遺症が出てきます。そのため、手術前にどこを切開して、どのようにふくらみを維持するかなど、手術後のイメージをつけると共に、しっかりと自分の希望を伝えることが大切です。


乳房切除術(全摘)

乳房切除術(全摘)

乳房切除術は、乳房を「全て」切除する方法です。乳房のみを切除し、大胸筋、小胸筋といった筋肉を残す「胸筋温存乳房切除術(オーチンクロス法)」が一般的な切除術です。

乳房切除術では、乳房を全て切除するため、切除と同時に乳房の再建術を行うことができます

また、乳腺は切除しても、乳輪や皮膚などは残すという手術方法もありますが、皮膚の近くにがんがあったり、乳頭や乳輪を残すことで再発のリスクが上がったりすることも多いため、しっかりとした画像診断や、手術中に乳頭直下の迅速病理検査が必要となります。


【 対象 】

しこりの大きさが4、5cm以上であったり、乳房を残すことで再発が心配されたりする場合など、乳房温存手術が適応にならない際に行われます。

本来、乳房温存手術が適応される「0期」であっても、広範囲の乳管にがんが広がっている場合は、乳房切除術が適応となります。

また、乳房温存術で残す乳房より、乳房切除術と乳房再建の方が美容的に良い場合にもこちらが選択されます。


【 治療 】

乳房切除術は全身麻酔で行われ、2、3時間の手術時間を要します。手術後の経過が順調であれば、10日ほどで退院できます。

局所での再発リスクはほとんどなくなりますが、遠くの臓器に転移する可能性は残るため、全身療法を行うかどうかを決定する必要があります。


【 費用 】

切除のみ行った場合は約20万円、同時再建を行った場合は約35万円(3割負担の保険適用時)

※2014年1月から同時再建は保険適用となっています。


【 後遺症 】

乳がん手術の際、脇のリンパ節も一緒に切除すると切除した側の腕がむくみやすくなったり、腕が上がりにくいといった後遺症が起こりやすくなります。


乳房再建の時期

ピンクリボン

乳房切除術(全摘)を受けた人を対象に、乳房を再建することが可能です。乳房再建には、乳房切除術と同時に行う「一次乳房再建」と、一定期間を置いて再建を行う「二次乳房再建」があります。

乳がんの進行度や医療機関の設備などにより、自分の意思で一次にするか二次にするかを選べないケースもありますので、乳房再建の時期については、手術前の段階で医師としっかり相談する必要があります


【 一次乳房再建 】

一度の手術で乳房の切除から再建まで行います。一度に行うため「乳房が無い状態」の期間がなく、喪失感は軽減できます。

一般的には、乳がん手術に続いて、組織拡張器(ティッシュエキスパンダー)を入れて、ふくらみを確保します。約6か月後に組織拡張器をインプラントと入れ替えたり、自家組織と置き換えたりします。この再建方法を「一次2回法」といいます。


【 二次乳房再建 】

切除術を行った後、一定期間を経た上で再建術を行います。一定期間は乳房がない生活を送らなくてはいけないため、精神的な負担が大きくなります。

二次再建にも、1回法と2回法があります。1回法では自家組織を用います。2回法は、皮膚を組織拡張器でのばした後、インプラントや自家組織で再建します。


自家組織による再建か、インプラントによる再建か

一次再建においても、二次再建でも、以下の2種類から選択することとなります。


【 自家組織による再建 】

30万円から40万円(3割負担の保険適用時)ほどの費用がかかります。手術に4時間から8時間かかる他、約2週間の入院が必要となります。

人工物を体に入れるのに抵抗がある人や、放射線療法を受ける人などが対象となります。自家組織なのできれいにできますが、体への負担が大きく、社会復帰までに時間がかかるという懸念点があります。


【 インプラントによる再建 】

自家組織による再建と同様に、30万円から40万円(3割負担の保険適用時)ほどの費用がかかります。手術は1、2時間程度で済み、体にかかる負担が少ないために社会復帰までの期間は短くなりますが、

  • 年齢と共にもう片方の乳房と差が出る
  • 放射線療法後は適応が難しい
  • 感染が起こる場合がある

といった懸念点があります。


手術を受けるにあたって

乳がんの手術において、まず問題となるのが「女性にとって大切な乳房を手術によって切除しなくてはいけない」という喪失感です。乳房は女性らしさの象徴でもあります。そのため、病気によってとはいえ、それを傷つける、あるいは切除しなければならないということは、受け止められるまでに時間がかかります。

精神的につらいときは心の内にとどめず、医師や看護師、カウンセラーに相談しましょう。


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放射線療法

放射線療法

放射線療法とは、放射線を当てた部分だけ細胞を死滅させることができる局所療法です。

放射線治療では1日あたりの拘束時間が短いため、治療後に仕事や家事を行うことも可能です。


【 対象 】

乳房温存の手術療法を受けた後は、再発を防ぐために、術後2か月以内に放射線療法をはじめることが一般的となっています。

また、乳がんは放射線治療の効き目が良いとされており、乳房だけでなく、脳や骨に転移している場合にも、放射線療法を行う場合もあります。


【 照射期間と回数 】

乳がん治療においては、照射する単位や部位は人によって異なりますが、1日1回の照射を25回から30回行うのが一般的です。これにより合計で45グレイから50グレイ(Gy)の線量が照射されます。

放射線療法は間隔が空いてしまうと効果が弱まってしまうため、週末以外の5日間は毎日通院が必要となります。


【 費用 】

1回の照射に約5000円(3割負担の保険適用時)
これに回数分をかけあわせて、合計で12万2000円から16万4000円ほどかかります。


【 副作用 】

放射線治療を開始して2週間ほど経つと出現する副作用を「急性障害」といいます。乳がん治療の場合、主に皮膚が炎症を起こし、強い日焼けの跡のようになります。これは多くの人が経験する副作用であり、治療が終了すると1か月ほどで良くなってきます。

また、治療後しばらく時間が経った後に起こる「晩期障害」もあります。これは急性障害と違い、起きることはまれですが、放射線治療後数か月から数年後に、放射線肺炎やむくみなどが発生するものです。


薬物療法

薬

薬物治療は「全身療法」であり、乳がんではホルモン療法、化学療法、分子標的療法の3つが行われています。


乳がんにおける薬物療法の目的は主に、

  • 乳がんの再発を防ぐ
  • 乳房内のがんを小さくして手術をしやすくする
  • 再発・転移に対して治療をおこなう

のいずれかとなります。どの治療を行うかは、これらの治療目的と、乳がんの特徴に合わせて決定します。


がんがある部位を集中的に行う局所療法とは違い、薬物療法は全身に対して行う治療のため、様々な副作用が出現します。


ホルモン療法

乳がんの約70%は、女性ホルモンである「エストロゲン」によって乳がんが増殖するタイプとなっています。そのため、ホルモン療法では乳がんの進行を抑えるために、エストロゲンの作用を抑えたり、エストロゲンの産出量を減らしたりする治療を行います


【 対象 】

ホルモン療法は乳がんの中でもホルモン療法への「感受性」が良いと診断された場合のみ行われます。また、同じ感受性が良いと診断された場合でも、閉経前と閉経後ではホルモンバランスが違うため、投与されるホルモン剤も変わります。


【 副作用 】

ホルモン治療では、体内のエストロゲンの作用や量を減らします。そのため、副作用として現れるのが「更年期障害のような症状」です。顔のほてりや動悸、肩こりやうつ状態、関節痛など、症状は多岐にわたります。また、使うホルモン剤によって出現しやすい症状も異なってきます。

出現する症状については、症状を改善する薬を追加したり、カウンセリングなどで精神的なケアを行ったりして対応します。特にホルモン療法中は、更年期に効くとされている漢方やプラセンタなどを使用すると、エストロゲンの量や作用のコントロールを阻害してしまう可能性があることから、注意する必要があります。必ず主治医にご相談ください。


主な薬剤

閉経前は「LH-RHアゴニスト製剤」、閉経後は「アロマターゼ阻害薬」が治療に使われます。「抗エストロゲン剤」は閉経前後どちらにも使われます。

ホルモン療法後に乳がんが再発した場合は、再発前と違うタイプの「アロマターゼ阻害薬」「抗エストロゲン剤」や「黄体ホルモン剤」などが使われます。

分類および薬剤

適応

投与法

費用

抗エストロゲン剤

・タモキシフェン

閉経前
閉経後

錠剤を1日1回
(5年を目安に続ける)

1か月2500円から4000円

・トレミフェン

閉経後

・フルべストラント

閉経後

筋肉注射を4週に1回

1か月約3万円

LH-RHアゴニスト製剤

・ゴセレリン
・リュープロレリン

閉経前

皮下注射を

・1か月に1回

・3か月に1回

・6か月に1回

のいずれかの頻度で

(2、3年続ける)

1か月に1回の場合約1万5000円
(3か月、6か月に1回の場合、割安になる)

アロマターゼ阻害薬

・アナストロゾール
・エキセメスタン
・レトロゾール

閉経後

錠剤を1日1回
(5年を目安に続ける)

1か月5000円から6000円

黄体ホルモン剤

・黄体ホルモン剤

閉経前
閉経後

錠剤を1日1回

人によって服用する薬の量が異なるため費用は確認が必要

※費用は3割負担の保険適用時


化学療法(抗がん剤治療)

点滴

乳がんに使われる主な化学療法剤は「アルキル化剤」「代謝拮抗剤」「抗がん抗体物質」「植物由来」のものです。

一般的に、手術前後に化学療法を行う場合には2、3種類の薬を組み合わせて使う「多剤併用療法」が行われます。

それぞれ個々の乳がんの進行具合や体型、化学療法剤に対する感受性などを考慮して使用する化学療法剤を決定するため、「この療法はこのような状態の患者さんに適応」という一定の決まりはありません。


【 対象 】

乳がんにおける化学療法は、進行したがんやホルモン治療による感受性が低いと診断された場合の全身療法として、再発や転移を予防するために行われます。


【 副作用 】

化学療法の場合、全身療法であるが故に様々な臓器に副作用の症状が出ます。抗がん剤は、「分裂が活発に行われる細胞」が主に障害を受けるため、以下のような器官へ特に影響を及ぼします。


  • 血液細胞の障害
    骨髄にある血液を作る細胞が影響を受けることで、白血球や赤血球、血小板が減少します。そのため、細菌に感染しやすくなる、出血しやすくなる、貧血になりやすくなるなどの副作用が起こります。
  • 消化系器官の障害
    口内炎や下痢、吐き気や嘔吐などが起こりやすくなります。
  • 毛母細胞の障害
    抗がん剤の副作用として広く知られている「脱毛」は、毛根がダメージを受けることによって起こります。
    治療が終わると再び髪の毛や眉毛、まつげなどが生えてくるようになります。

これらの副作用は、治療が終わることで軽減します。各副作用については、治療を始める段階である程度どれくらい出現するか見通しを立てているため、事前に症状を軽くする薬が処方されたり、ウィッグなどを作って一時的な脱毛に備えたりすることが可能となっています。


主な抗がん剤の種類

乳がんに使われる抗がん剤は、以下のようなものが挙げられます。

一般名

商品名

投与方法

シクロホスファミド

エンドキサン

経口
静注

フルオロウラシル

5-FU

テガフール・ウラシル

ユーエフティ

経口

カペシタビン

ゼローダ

テガフール・ギメラシル・オテラシル

ティーエスワン

ゲムシタビン

ジェムザール

静注

メトトレキサート

メソトレキセート

ドキソルビシン

アドリアシン

エピルビシン

ファルモルビシン

ビノレルビン

ナベルビン

パクリタキセル

タキソール

ナブパクリタキセル

アブラキサン

ドキタキセル

タキソテール

カルボプラチン

パラプラチン

イリノテカン

カンプト、トポテシン

エリブリン

ハラヴェン


多剤併用療法

多剤併用療法の一例としては、FCE療法やAC療法が挙げられます。

治療法

治療日

投与法

1コースあたりの期間

1コースあたりの費用

FCE療法

フルオロウラシル

(代謝拮抗剤)

1日目

(点滴)

3週間

約2万7000円

エビルビシン

(抗がん抗生物質)

シクロホスファミド

(アルキル化剤)

AC療法

アドリアマイシン

(抗がん抗生物質)

1日目

(点滴)

3週間

約1万円

シクロフォスファミド

(アルキル化剤)

※費用は3割負担の保険適用時


分子標的療法

分子標的療法は、がん細胞の働きを促すHER2タンパク質の増殖を防ぎ、がん細胞を攻撃する治療が代表的です。これを「抗HER2療法」といいます。

以前から使用されてきた「トラスツズマブ」の他、最近では「ペルツズマブ」、「ラパチニブ」、「トラスツズマブエムタンシン」などが用いられます。その他、がんに栄養を送る血管がつくられることを防ぐ「ベバシズマブ」、がん増殖経路を阻害する「エベロリムス」があります。

分子標的療法は、化学療法(抗がん剤治療)とセットで行われるのが一般的となっています。


【 対象 】

抗HER2療法はがんのサブタイプが「HER2陽性」の乳がんを対象とします。


【 副作用 】

分子標的治療薬で最も使われている「トラスツズマブ」では、治療開始時に約40%の人に発熱や悪寒がみられます。また、ごくまれに心臓の機能を低下させるために動悸や息切れ、全身のむくみが起こることがあります。


まとめ

乳がんと診断されたときは、「私は生きられるのか」「乳房は切除しなくてはいけないのか」「家族はどうするのか」「治療費はどうするのか」など様々な不安が同時に襲ってきます。こうした時、頼りにしたいのが「確実な情報」です。

診断した医師をはじめとする医療従事者と共に、確実な情報を集め、自分が納得できる治療法を、医師ではなく「ご自身」で決断していただければと思います。そのためには、ひとりの医師ではなく、複数の医師に意見を聞くセカンドオピニオンも有効です。ぜひ、あなたが納得できる治療方法を見つけてください。

※本記事の内容は掲載時点の情報であり、最新の情報とは異なる場合があります。予めご了承ください。


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