≪医師執筆≫トリプルネガティブ乳がんの特徴、診断法、治療法、予後について

更新日:2017/09/29

トリプルネガティブ(TN乳がん)とは、ホルモン療法や抗HER2療法の効果が期待できない反面、化学療法が有効なタイプの乳がんです。以前は、予後不良でしたが、化学療法の進歩により予後が改善しています。また、TN乳がんと診断された乳がんの中に、様々な性格の乳がんがあることが分かってきています。そこで、TN乳がんをさらに細分類する研究と、それに基づく診断法や治療法の研究開発が進んでいます。


記事監修医師福田護先生  

【 記事執筆 】
聖マリアンナ医科大学
ブレスト&イメージングセンター
院長  福田護 先生


女性

●乳がんのサブタイプ
●トリプルネガティブとは
●TN乳がんの診断方法
●TN乳がんの治療方法
●TN乳がんの予後(再発率)
●TN乳がんの治療の今後


乳がんのサブタイプ

乳がんのサブタイプ

乳がんは、多様性のあるがんであり、様々なタイプがあります。乳がんのタイプは、乳がんの細胞が持っている遺伝子の特徴によって決まります。乳がんには、多数の遺伝子が関与していますが、現在は遺伝子を大きく5つのグループに分類しています。これをサブタイプといいます。


しかし、すべての乳がん組織の遺伝子を調べるのは、費用や時間的に困難です。そこで、臨床現場では、乳がん組織中の4つのタンパク、「エストロゲンレセプター(ER)」、「プロゲステロンレセプター(PgR)」、「HER2」、「Ki-67」の存在有無やその多寡を調べて、遺伝子での分類の代用にしています。実際、遺伝子で分類するサブタイプと、タンパクで分けるサブタイプは、完全に一致しないが、近似していることが分かっています。


トリプルネガティブとは

トリプルネガティブ(Triple-negative  TN)とは、乳がんのホルモン療法の効果を予想する「エストロゲンレセプター(ER)」、「プロゲステロンレセプター(PgR)」、抗HER2療法の効果を予想する「HER2」の3つのタンパクが陰性のことをいいます。


TN乳がんの割合

サブタイプ別乳がんの割合

TN乳がんは、乳がんの約10%を占めます。TN乳がんは、40歳以下の若い女性に比較的多いことが知られています。また、TN乳がんは、遺伝性乳がん・卵巣がん(BRCA 1、BRCA 2遺伝子変異あり)にも多いことが知られています。そのため、若いTN乳がん患者さんには、乳がんを含めたがんに関する家族歴の聴取や遺伝子外来受診などが勧められます。


→遺伝性乳がんについて詳しくはこちら


マンモグラフィ検診で見つけにくい場合がある

TN乳がんは、増殖スピードが速いため、マンモグラフィ検診で見つかるより、自分で気づいて診断されることが多くあります。また、マンモグラフィが不得意とする若い女性に多いため、マンモグラフィ検診では見つけにくい場合があります。


TN乳がんの診断方法

診察

乳がんの診断はマンモグラフィや乳房エコーで行われますが、最終的な確定診断は病理検査による組織診断で行います。組織診断で乳がんと診断された場合、乳がん組織を用いてER、PgR、HER2の検査が行われます。この3つのすべてが陰性である場合、TN乳がんと診断します


TN乳がんの細分類

乳がん組織は不均一であり、1つのがんの中には、複数のタイプのがん同時に存在していることが分かっています。TN乳がんの中にも、様々なタイプが混在しています。「この様々なタイプの存在を無視して、均一の化学療法を行っている」ため、治療効果を得られないTN乳がんがあると考えられています。


そこでTN乳がんをさらに細分類することができれば、それぞれの細分類に応じた治療ができることになります。例えば、TN乳がんを遺伝子パターンで7つの細分類に分けて、それぞれに対する新しい薬剤の開発や適切な治療方法の研究が行われています


TN乳がんの治療方法

TN乳がんの治療法は、手術療法や放射線療法といった「局所療法」と、薬物療法の「全身療法」があります。


手術療法(外科療法)

通常の乳がんと同様、ステージⅠ、Ⅱ(主に3cm以下)のTN乳がんに対して、主として乳房温存手術が行われます。また、術前化学療法を行った場合、縮小した乳がんに合わせて乳房温存療法の適応を決定しています。一方、乳がんが大きい場合や遺伝性乳がんの場合は、乳房切除術(全摘)が勧められます。


また、通常の乳がんと同様、マンモグラフィや乳房エコーなどで、腋窩リンパ節転移を疑う所見がない場合、センチネルリンパ節生検を行います。センチネルリンパ節が陰性の場合、腋窩リンパ節郭清が所略されます。


放射線療法

通常の乳がん同様、乳房温存手術後に放射線療法を行います。


化学療法(抗がん剤治療)

点滴

TN乳がん対して、ホルモン療法や抗HER療法が有効でないことより、全身療法として化学療法が用いられます。再発リスクの軽減、無再発生存率の改善、生存率の改善に対する化学療法の効果は、ホルモンレセプター陽性乳がんよりTN乳がんに高いことが知られています


【 対象 】

TN乳がんに対する化学療法は、0.5cm以上の浸潤がんあるいはリンパ節転移陽性の場合に行います。0.5cm以下の場合、予後が良いため、化学療法は行いません。


【 使用薬剤 】

使用薬剤としては、アントラサイクリン系、タキサン系が有効です。また、アントラサイクリン系だけよりも、アントラサイクリン系薬剤使用後引き続いてタキサン系を使用すると無再発生存率が改善することから、一般的にこのような方法を用います。遺伝性乳がんで、TN乳がんの場合、白金製剤が有効であることが分かっています。


【 術前化学療法と術後化学療法 】

予後改善に対する効果に関しては、術前化学療法と術後化学療法は変わらないと考えられています。そのため、術前化学療法を行った場合、原則術後化学療法は行いません。


術前化学療法は、大きな乳がんのため、乳房温存療法や乳がん手術そのものを行うのが困難な場合に、施行します。術前化学療法で乳がんが小さくなったため、乳房温存手術が可能になったり、乳房温存手術の乳腺切除範囲を縮小できることが多くあります。術前化学療法で乳房内の乳がんが完全に消失した場合、予後が良いことが知られています。


分子標的療法

TN乳がんを細分類すると、分子標的薬が有効なグループが存在することが分かってきています。


TN乳がんの予後(再発率)

乳がんの再発率

TN乳がんは、ホルモン療法が有効な乳がんに比べ、予後不良です。また、増殖傾向が強いため、術後3年までの再発率が高いことが知られています


効果的な化学療法がなかった1986年から1992年のTN乳がん症例(オレンジ色)では、HER2陽性乳がんと同様、術後3年までの再発率が高いことが分かります。しかし、化学療法が進歩した2004年から2008年の乳がん症例では、再発率が減少しています。特に、術後3年間の再発率が著しく減少しています。


TN乳がんの治療の今後

TN乳がんや再発TN乳がんの新しい治療法、TN乳がんの細分類の診断法とそれに基づく治療法、遺伝性乳がん・卵巣がんにみられるTN乳がんの治療法など、様々な研究が行われています。


※本記事の内容は掲載時点の情報であり、最新の情報とは異なる場合があります。予めご了承ください。