≪医師執筆≫遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)とは?遺伝子検査と発症リスク、適切な治療方法の選択について

更新日:2017/09/20

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乳がんのおよそ5%から10%は遺伝性であり、その中に、「遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC:hereditary breast and ovarian cancer)」と呼ばれるタイプのものがあります。HBOCは、遺伝性乳がんの中では最も多く、様々な点で通常の乳がんと異なります。ここでは、適切な医療を受けるために知っておいて欲しい、HBOCに関する事項について概説します。


記事監修医師福田護先生  

【 記事執筆 】
聖マリアンナ医科大学
ブレスト&イメージングセンター
院長  福田護 先生


●病気と遺伝子の関係
●遺伝性乳がんと家族性乳がんの違いと割合
●遺伝性乳がんにみられる遺伝子変異(原因)
●HBOCの特徴
●HBOCの診断までの過程
●遺伝子検査の内容と費用
●遺伝子検査のメリットとデメリット
●HBOCに対する対処法(検診・手術・薬物療法)


病気と遺伝子の関係

人体は遺伝子の情報によって作られています。この遺伝子に変化(変異)が起きると、様々な病気になります。


がん遺伝子とがん抑制遺伝子

【 がん遺伝子 】

細胞の増殖をコントロールしている遺伝子があります。この遺伝子に変異が起こると、細胞増殖のアクセルが踏まれたままの状況になり、がんに繋がります。このような遺伝子ががん遺伝子です。


【 がん抑制遺伝子 】

常に体の細胞のどこかで遺伝子変異が起きています。この遺伝子の変異が次の細胞に受け継がれる前に、修復する遺伝子があります。これが、がん抑制遺伝子です。がん抑制遺伝子に変異が起こり、体内の変異した遺伝子を修復する能力や、遺伝子異常を起こした細胞を排除する能力が低下すると、がんにかかりやすくなります


先天的変異と後天的変異

遺伝子の変異には、親から受け継ぐ先天的なものと、生まれた後に起こる後天的なものがあります。先天的な変異は生殖細胞変異、後天的な変異は体細胞変異といわれます。


遺伝性乳がんと家族性乳がんの違いと割合

家族性乳がんと遺伝性乳がんの割合

家族に乳がんが多いなど、乳がんなりやすい体質を受け継いでいることがあり、これを、「家族性乳がん」といいます。その中で、親から受け継いだ遺伝子変異が原因の場合、「遺伝性乳がん」として区別します。


乳がん患者全体の中で、家族性乳がんの割合は15%から20%、遺伝性乳がんの割合は5%から10%とされています。


遺伝性乳がんにみられる遺伝子変異(原因)

遺伝性乳がんで最も多いのは、HBOCです。BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子の変異が原因です。その他に、Li-Fraumeni症候群(TP53遺伝子の変異)、Cowden症候群(PTEN遺伝子の変異)などがあります。


ちなみに、BRCA 1遺伝子、BRCA 2遺伝子、TP53遺伝子、PTEN遺伝子はがん抑制遺伝子です。


変異遺伝子が遺伝する確率

突然遺伝子が遺伝する確率

父あるいは母にBRCA遺伝子変異があると、2分の1の確率で子どもは変異のある遺伝子を受け継ぐことになります。


HBOCの特徴

HBOCにおける乳がんの特徴として、

  • 若い年齢に発症しやすい
  • 両側乳房に発症しやすい
  • 乳がんと卵巣がんを発症しやすい

などがあります。


HBOCの発症リスク

乳がん・卵巣がんの発症リスク

BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子に変異がある場合、年齢が高くなるにつれて乳がん発症リスクが高くなります


HBOCの診断までの過程

診断までの過程は、本人が乳がんと診断されている場合と、本人が乳がんでない場合で変わってきます。


本人が乳がんと診断されている場合

HBOC診断までの過程(本人が乳がんである場合)

乳がん患者で、近い血縁者(父母、兄弟姉妹、子ども、祖父母、おじ、おば)に上記のような人がいる場合、HBOCの可能性があります。患者さんは家族の病気のことについて知っておいてください。

主治医がこれらの情報を評価(第1次評価)してHBOCの可能性があると判断した場合、乳がん遺伝外来の受診を勧めます。この外来は、乳腺外科の遺伝担当医やがんの遺伝外来担当医が行います。

遺伝外来では、本人及び血縁者の病歴をもとに詳しく評価します(第2次評価)。そこで、遺伝性乳がんの可能性が高いと判断された場合、遺伝子検査や検診サーベイランスなどの選択肢の説明を受けます。

遺伝子検査を受けると決めた場合、別の日に来院して検査を受けます。遺伝子変異の有無で乳がんの治療方針が異なるため、できるだけ治療開始前に検査結果が分かるようにします。


本人が乳がんでない場合

HBOC診断までの過程(本人が乳がんでない場合)

本人が乳がんでなく、血縁者に上記のような人がいる場合、HBOCの可能性があります

検査を受ける場合、第1次評価、第2次評価、遺伝子検査の順に進みます。


遺伝子検査の内容と費用

検査は血液で行います。


遺伝外来や遺伝子検査には保険適応がありません。医療機関によって異なりますが、遺伝外来が5000円前後、遺伝検査が20万円から30万円です。


遺伝子検査のメリットとデメリット


メリット

遺伝子検査で遺伝性乳がんと分かれば、効果的な治療ができるという大きなメリットがあります。また、娘や姉妹など血縁者の乳がん発症リスクも分かります。血縁者の方が適切な検診を受けることで、乳がんの早期発見や、健康管理につなげることができます。


デメリット

自身の乳がんが遺伝性であると知ることには心理的な負担を伴うこともありますし、血縁者の方々が「自分もがんになるかも」という不安を感じることもあります。遺伝ということが敬遠され、社会的偏見などの不利益を被ることも考えられます。


検査を受ける前に相談を

遺伝性乳がんの疑いがある患者さんや家族の相談に対応するため、医師、看護師、カウンセラーなどがチームとなって支える仕組みも整いつつあります。検査について家族や医師などとよく話し合いましょう


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HBOCに対する対処法(検診・手術・薬物療法)


検診方法

BRCA遺伝子に変異がある場合の検診方法として

  • 18歳から自己検診
  • 25歳から、6か月から12か月毎の問診・視触診
  • 25歳から29歳は、年1回の乳房<MRI検診
  • 30歳から75歳は、年1回のマンモグラフィ、乳房エコー検査および乳房MRI検診

などが勧められています。


29歳までレントゲン検査などによる被ばくをなるべく避けることが勧められています。


手術方法

手術方法は、本人が乳がんの場合と、本人が乳がんでない場合で変わってきます


本人が乳がんの場合

【 乳房切除術 】

遺伝性乳がん・卵巣がんでは乳がんが多発する傾向があることより、乳房温存手術より乳房切除手術が安全とされています。乳房切除手術の場合、再建を行う選択肢があります。


【 リスク低減乳房切除術 】

乳がんになった反対側乳房に乳がんが発症しやすいため、予防的に乳房を切除する場合があります。予防効果は約90%です。保険医療の対象ではありません。


【 リスク低減卵巣卵管摘出術 】

卵巣・卵管がんに対するリスクを軽減すると共に、乳がん発症の予防にもなります。保険医療の対象ではありません。


→乳がんの手術療法について詳しくはこちら


本人が乳がんでない場合

【 リスク低減乳房切除術 】

予防的に両側乳房を切除します。一般的には再建を行ないます。保険医療の対象ではありません。


【 リスク低減卵巣卵管摘出術 】

卵巣がんに対するリスクを軽減すると共に、乳がん発症の予防効果があります。保険医療の対象ではありません。


薬物療法

薬物療法は、乳がんに対する薬物療法と、乳がんリスク軽減のための薬物療法があります。


乳がんに対する薬物療法

BRCA1とBRCA2のどちらに変異があるかで、がんのタイプが異なり、効果的な薬物療法も違います


BRCA1の変異の場合は「トリプルネガティブ」タイプであるケースが約6割みられます。「トリプルネガティブ」タイプでは、ホルモン療法や分子標的療法が効かないため、主に化学療法による治療が行われます。


BRCA2の変異の場合は、女性ホルモンの影響を受ける「ルミナール」タイプが多いことが知られています。「ルミナール」タイプであればホルモン療法が適用となります。化学療法を併用することがあります。


化学療法として、プラチナ製剤のカルボプラチンやシスプラチンが有効です。また分子標的薬の開発・研究が進んでいます。


乳がんリスク軽減のための薬物療法

本人が乳がんの場合、対側乳がん発症予防のためにタモキシフェンが有効です。本人が乳がんでない場合、両側乳がん発症予防のためにタモキシフェンが有効です。ラロキシフェンはタモキシフェンと同等に有効です。


→乳がんの薬物療法について詳しくはこちら


【 参考 】

*サーベイランス:悪い部分を見逃さないように調査し、観察すること

*血縁者:父方/母方ともに少なくとも第3度近親者までをさす

*第1度近親者:父母、兄弟姉妹、子ども

*第2度近親者:祖父母、おじ、おば、甥、姪、孫

*第3度近親者:曾祖父母、大おじ、大おば、いとこなど

*日本HBOCコンソーシアム:2012年、遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)に関わる医療関係者の研究団体「日本HBOCコンソーシアム」が発足。より良いHBOCの医療システム作りを推進している。
日本HBOCコンソーシアムHPへ


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